展示と別れる

 展示を見に行って、部屋を出るのが無性にさみしくなることがある。むかし、それまで名前も知らなかった陶作家の回顧展を一人で見に行ってみたことがあった。作品を時代順に並べた、スタンダードな作りの回顧展だった。

 序盤に並んでいた作品は、正直全然わからなかった。私にはまだ早かったのかな、とか思いながら順路を進んでいくと、ひとつのモチーフが繰り返し登場する時期がはじまった。作り方をたくさん試して考えているように見えて、作家の姿まで見えてきたような気がした。代表的な作品のシリーズはそのあとからだった。一定の、手のひらに乗るようなサイズで、すごい数のモチーフをどんどんと作っていた。どれもかわいらしくて、ひとつひとつ見るのがうれしかった。次はどうなる、次はなにが来る、と、連載を読み進めるみたいに順路を進んで行った。

 とつぜん年表が現れて、作品は途切れてしまった。年表は走馬灯みたいだった。そうだった、これは回顧展で、作家はもうこの世にいないのだった。新作がもうないこと、物語の続きがないことが無性にかなしかった。夢の中で会った人に、目が覚めたらもう会えないのに似ていた。この部屋を出ると物語は終わりで、あとは思い出すことしかできない。それはたしかに、別れなんだと思う。

2020/01/27