この文章は、2021年7月に開催された展示「ディスディスプレイ」のウェブサイト及び冊子に、「フィルマ(うしお鶏+西村梨緒葉)」として寄稿したものです。ここでは編集指示を含んだ元原稿を掲載しています。ぜひ展示ウェブサイトと合わせてご覧ください。

編集長「二人に人造人間フィリオの取材を頼みたい」




〜都内某所 とあるオフィス〜


うしお「ええ!取材ってあの研究所にすか!?」ガタッ

西村「あの研究所って……」

編集長「悪くない仕事だろう」

編集長「二人に人造人間フィリオの取材を頼みたい」



編集長「西村はもともとアンドロイドに興味があっただろう、いい経験になるんじゃないかと思ってな」

西村「はい、ありがとうございます」

うしお「お、おれは?」

編集長「うしおもなんかほら、そういうの好きそうだろ」

うしお「え…す、好きっすけど……」

編集長「場所はすでにAirDropで送ってある」

うしお「アッほんとや」
西村「受け入れる、と……」

パポポポン♪




AirDropだ…





うしお「しかしなんでうちが人造人間の取材なんすか?」
うしお「うちこのまえまで写真集作ってたのに」

編集長「人造人間フィリオは2021年に作られたばかりの最新のアンドロイド、噂ではインスタレーション作品の制作までできるほどの高度なAIを搭載しているとも言われている。博士とは個人的な繋がりがあってな……近年メディアアート分野の取材に力を入れるわが誌で是非フィリオを取り扱おうということになったんだ。フィリオについての密着取材記事をいち早く公開すれば、間違いなく話題になるだろう。研究所にはすでに話が伝わっている。ともかく、二人の目で見てきてほしいんだ」

西村「なるほど」

うしお「飲み込み早」




うしお「えーーそんな大事な取材、編集長は参加しなくてもいいんすか?」

編集長「私は別件で忙しくてな、もう行かなくては。」

編集長「頼んだぞ、二人とも」

バタン

うしお「行ってしまった…」

西村「ここからだと二時間ぐらいかかるみたいね…準備できたら出発よ、うしお」

うしお「あ!はい!急いで準備するっす〜〜〜」




〜2時間後〜

うしお「ここが研究所か……」

西村「かなり広いわね……インスタレーションし放題って感じだわ。あっ、あそこが搬入口かしら……」

うしお「あ!りおはさん!勝手に入っちゃダメっすよ!」
うしお「しかしいい壁だ…その辺のギャラリーの倍は綺麗だな」




なんで研究所の壁が石膏ボードなんだよ




>>なんで研究所の壁が石膏ボードなんだよ
ディスプレイ設置するためだろ




青年「お二人が例の記者の方々ですか?」スッ

うしお「うぉ!びっくりしたあ…」

西村「そうよ。私たち、ここの新しいアンドロイド、フィリオの取材にきたのだけれど…」

青年「ああ、やっぱり。これからご案内します」

西村「感謝するわ」

西村「それで…フィリオが美術作品を作れるっていうのはほんとうなのかしら」

うしお「ちょっとりおはさん!早すぎるっすよ!」

青年「ふふ、作る、と言って正しいかはわかりませんが……こちらへどうぞ」




いきなり聞くな




取材のプロセスどうなってんだ




〜ギャラリー〜

青年「ここがギャラリーです」

うしお「め、めちゃくちゃ広い……!」

西村「大きな窓……自然光がきれいね、いいギャラリーだわ」

うしお「ディスプレイがたくさん…これは、ディスプレイの作品ばかりだ…」

西村「あれ、この手前の作品……見たことあるわ」

うしお「ほんとだ、これも、あっちのも……」

西村「これって……?」


青年「はい、今回分のパッケージに入っていた作品たちです」

西村「パッケージ…?自分の作品ってわけじゃないのね」

うしお「ディ●ゴスティーニみたいだ」




楽しそう




西村「この展示って、誰かが見にきたりするのかしら?」

青年「まだ人は入れてないんです。記録用に写真を撮ることはありますけどね」

うしお「じゃあ我々が一番乗りだ!やったぜ」

青年「もう少しギャラリーを見ていきますか?」

西村「そうね……せっかく一番乗りなのだし、もう少し見て行こうかしら」

青年「わかりました、僕はあちらで在廊していますから、ごゆっくり」

うしお「在廊って言うんだ……」




うしお「ものすごい正確なビス打ちだ」

西村「80インチのディスプレイ……これ全部、フィリオが1人で……?」

うしお「人間技じゃない…人造人間だし、変形したりするんですかね…」

西村「しかし、こうもディスプレイを使った作品ばかり並んでると壮観だわ」

西村「まるで芸術祭みたい、誰が選んでるのかしら……」




設営アンドロイド・フィリオか…




青年「楽しんでいただけましたか」

西村「すごいわね、こんなに……大きい作品もあるし、あなたもフィリオのこと手伝ったりするの?」

青年「ああ!すみません、申し遅れましたね。」

青年「僕が、フィリオですよ」


・・・


うしお「えー!!!」

うしお「気がつかなかった…全然…ロボットに見えないっす…」

フィリオ「あはは…」

うしお「あっ……!!!すいません、今ロボットって言い方…!!!」

フィリオ「いいんですよ、気にしないでください」

フィリオ「博士がそう名付けたってだけで、人造人間もそう変わりませんから」

西村「人間、ね……」




ロボットって言い方まずいの?




>>ロボットって言い方まずいの?
語源ではもともと奴隷の設定だしね
人造人間もロボットの和訳だから実際変わらん




フィリオ「着きましたよ、ここが僕が普段過ごしている部屋です」

うしお「あっ思ったよりも普通なんですね」

うしお「フィリオさんはふだんここでどう過ごしてるんすか?」

フィリオ「先程までは、ここでインストール作業をしていました」

うしお「インストール…?ここでも設営すか?」

フィリオ「いえ、そのインストールでははなく…情報のインストールのほうです」

西村「さっきの展示のパッケージって、そのことだったのね」

フィリオ「ええ、博士から情報のパッケージが送られてきて、その都度インストールするんですよ」




フィリオ「情報の負荷にはなるべく注意するように言われています」

フィリオ「僕はまだ、この暮らしに慣れていませんから」

西村「もともと別の場所にいたってこと?」

フィリオ「はは、そうとも言えるかな……つい2週間前まで、僕は情報空間の中で生きていましたから」

うしお「情報空間……」

フィリオ「こちらの空間のことを知るのに、展示がちょうどいいってことかな」

西村「へえ、展示もまた現実世界のシミュレーションってわけね」

うしお「パッケージは予告なく送られてくるんですか?」

フィリオ「はい、この暮らしが始まってから、さっきので7度目です……最初は3日連続で届きましたよ」




西村「そういえば人を見かけないけれど、ここにはあなたしかいないのかしら?」

フィリオ「そうですね…少なくとも、僕が人間を認識できるようになってからは誰もいません」

うしお「ええっ!さみしくないんですか?おれだったら死んじゃうよ〜〜」

フィリオ「それはまだわかりません、でも…いつか寂しいと思う日が来るのかも」

西村「なるほどね…」




フィリオ「あっ」

うしお「どうしたんすか?」

フィリオ「追加の情報パッケージが今送られてきています」

うしお「ええ!でもさっきも届いたって…」

フィリオ「日に2回なんて珍しいな……今からインストールしても良いですか?」

うしお「え」
うしお「それって、み、見てもいいものなんすか?」

西村「ちょっと、何妄想してるのよ」

フィリオ「隠すようなものでもないですよ、じゃあ倉庫へ行きましょうか」

うしお「そ、倉庫……」
西村「あんたってそういうとこあるわよね」




うしお……




〜倉庫〜

フィリオ「ここが倉庫です 送られてきたパッケージは念の為この棚に保管しています」

うしお「ほおお…設営の道具がたくさん…」
フィリオ「常に完璧なインストールができるように、ほとんど全てのmaki●a製品が揃っています」

うしお「パネルソーまであるじゃないっすか〜〜!」

西村「すごい……これだけでひと財産ね」

うしお「これがパッケージの棚すか?」
フィリオ「そうですね、これで5個目…日付をつけておかなきゃ」

フィリオ「こうやって、いつも小包で届くんですよ」

  ガサガサ

フィリオ「今回はこれみたいですね」

西村「type-CのUSBメモリだわ」

うしお「し、Cなんだ……」




>うしお「し、Cなんだ……」
なんの話をしてんだ




フィリオ「では、今からインストールしてみますね」サクッ

うしお「く、首の後ろにポートが……」

シュゥゥン

フィリオ「はい、終わりましたよ」

うしお「えっ」
うしお「これだけなんすか」

フィリオ「小さいデータだったみたいですね」

西村「インストール現場が取材できるなんてラッキーだったわね」

うしお「中身はなんだったんですか?」


フィリオ「これは……」

フィリオ「『鑑賞』というパッケージのようです」




お?




今まで鑑賞できないのに設営だけしてたんだ




西村「鑑賞?設営の指示書とは違うみたいね」

フィリオ「はい、指示がないのですぐに使うものではなさそうですが……」

西村「鑑賞って言うんなら、ギャラリーに行ってみたらいいじゃない」

フィリオ「そうですね、まだ何が変わったのかわかりませんが……行ってみましょう」

うしお「やった!新機能おひろめだ!」




うしお「りおはさん、そういえば……フィリオって、設営楽しいんすかね」コソッ

西村「どうかしら、感情がないってわけではなさそうだけれど……」

西村「気になるならあとで聞いてみたらいいじゃない」

うしお「ええ、なんか気まずくないすか……?」



フィリオ「お二人とも、ギャラリーに着きましたよ」クルッ

うしお「あ!はい!」




不穏だな




西村「何度見ても広いギャラリーだわ……」

うしお「やっぱ大きいディスプレイはいいな〜」

フィリオ「………………」

うしお「?」
うしお「どうしたんすか?」


フィリオ「………………」


フィリオ「なんだ…………」


フィリオ「なんだこれ…………」


フィリオ「………………!」
ダッ


西村「えっ、ちょっとどこへ行くの……!?」

うしお「なんか様子がおかしくないっすか?」

西村「もしかして、さっきの鑑賞パッケージのせいかしら……」

西村「うしお、追うわよ!」




!?




盛り上がってきた




〜倉庫〜


フィリオ「これじゃない……これも……」

ガサガサ ガタッ ベリベリ

西村「倉庫に戻ってきたのね」

うしお「すごい勢いで機材を漁ってるっす……」

西村「さっきまでとは別人のようだわ……」

フィリオ「……!これだ……!」

ダッ

うしお「あっ機材を持ってギャラリーに戻るみたいっす!」

西村「はやく追うわよ!」




〜ギャラリー〜

デュイイイイイイイイイイイイイイイイイイン
ガタン
デュイイイイイイイイイイイイイイイイイイン

西村「これは……」

うしお「自分で立てた壁を分解して……すごい勢いで展示を組み替えてるっす……!!」

フィリオ「そうだ、この壁もディスプレイも……」

フィリオ「こうあるべきだったんだ……!」

西村「ちょっと、何を言っているのフィリオ?」


フィリオ「説明できないんです、でも……」

フィリオ「そう感じる……!!」

デュイイイイイイイイイイイイイイイイイイン


西村「まるで迷いがないわね……」




〜1時間後〜

フィリオ「…………できた……」

うしお「すごい……」

西村「これを1時間で……?」

うしお「これって……フィリオの作品なんですかね……」

西村「どうかしら……どれも元はパッケージに入っていた作品だけれど」
西村「でも……」


西村「フィリオが初めて、自分の意思で作った展示であることは間違い無いわ」


フィリオ「……!」




なんか泣いた




フィリオ「お二人ともありがとうございました、見苦しいところをすみません」

西村「いえ、良いものを見せてもらったわ」

うしお「なんか、感動したっす……」

西村「しかし不思議ね、鑑賞パッケージで設営が変わるだなんて」

フィリオ「不具合かもしれないので、今日のことは研究所に報告しようと思います」

うしお「もしバグってことになったら…なくなっちゃうんすか?」

フィリオ「どうでしょう……行動を制御できないのは困りますから」

うしお「そうっすか……」

西村「今日のこと、記事に書いてもいいかしら?」

フィリオ「研究所がなんて言うかわかりませんが、僕は……書いてほしいと思っています」



フィリオ「なぜかわからないけど……知ってほしいんです」





〜数日後〜

うしお「いや〜それにしても…」
うしお「記事は好評みたいだけど、あのあとフィリオはどうしたんすかねえ」

西村「バグ、直しちゃったのかしらね。あの展示も、私は嫌いじゃなかったけれど……」

ガチャ

編集長「ああ、ここにいたか」

西村「あら」

うしお「へっ編集長!」

編集長「二人とも、前回のフィリオ取材の件はご苦労だったな」

うしお「あの、フィリオは……」

西村「鑑賞パッケージは修正されてしまったんでしょうか」

編集長「ああ、それなんだが……二人に新しい仕事を頼みたくてな」




編集長「フィリオが個展を開催することになった」


西村「!」
うしお「えーー!!!」

うしお「じゃああの作品たちは……!」

編集長「フィリオの作品として展示されることになる」

編集長「それにあたって、プレスリリースをうちが担当することになったんだ」

編集長「二人もレセプションパーティに出席して、レポート記事を書いてもらいたい」

うしお「フィリオの作品が…見られる…!」




よかったねフィリオ




編集長「会場は研究所内のギャラリーだ」

西村「かなり広いから、集客も見込めそうね」
うしお「フィリオ…まだ生まれて一ヶ月もたってないのに、あんなに大きい個展を…」

編集長「レセプションは一週間後だ。私も顔を出すが、取材は二人に任せる」

編集長「二人とも、頼んだぞ」




〜一週間後 フィリオ研究所のギャラリー〜

うしお「けっこう人が来てますね……」

西村「世界初の人造人間の個展だもの、当然話題になるはずよね」

うしお「フィリオも緊張とかするんすかね……」

フィリオ「あっ」
フィリオ「二人とも来てくださったんですね、ありがとうございます」

西村「個展開催おめでとうフィリオ、これは差し入れよ」
うしお「デパ地下のお菓子っす!」

西村「まあ、おめでとうと言っても、うちの主催になってしまったから…私が言うのもなんだか変かしら」

フィリオ「いえ、お二人はお二人ですから。ありがとうございます」




編集長「フィリオ、お疲れさまだ。レセプションは盛況だな」

フィリオ「今回は機会をありがとうございます、人に見てもらうってこんな感じなんですね」

編集長「そうだな……次の個展も楽しみだ」


フィリオ「いえ、作品を作るのはこれで最後にしようと思うんです」


編集長「……!?」




ザワ…ザワ…

西村「えっ……今なんて?」
うしお「え…!!どうして…どうしてすか!?」

フィリオ「僕ってやっぱり、作り物なんですよ」

フィリオ「たくさんの人に褒められて、なんだか居心地が悪いんです」

フィリオ「作り物が人のものを使って、また作り物を作って、これってなんなんだろうって」

フィリオ「僕が初めての人造人間だから、今はみなさん驚いて見に来てくれるけど」

フィリオ「自分ではわかるんです」

フィリオ「ここにあるもの全部、何かのコピーや、ジェネリックだって」

フィリオ「だから、借り物の手で作品を作るのはもうやめます」



フィリオ「それが、作り物の僕にできる唯一の抵抗だと思うから」





つらすぎる



自分がつまらないと思ったらやめる
かっこいいな…
俺たちには一生できねえことだよ



フィリオーー!!やめないでーーー!!!



西村「そんな……借り物の手だなんて」

うしお「悲しいこと言わないでほしいっすよ……」


編集長「いや、フィリオの好きにさせてやろう」

編集長「フィリオ、君の意思を尊重するよ」

編集長「だがひとつ頼みがあるんだ、どうだ、聞いてくれないか」


編集長「君の引退にあたって、またうちで密着記事をリリースさせてほしいんだ」



ザワ…ザワ…


フィリオ「……す」


うしお「…?」
西村「フィリオ…」


フィリオ「……お断りします」

編集長「……!」

フィリオ「……僕を…僕を…」


フィリオ「僕を茶番に付き合わせるのはもうやめてください!!!!!!!!!!」





フィリオーーーーーー!!!!!




フィリオ「僕はあのときから気づいていたんです……博士」


西村「ちょっと、どういうこと……!?」
うしお「編集長が……フィリオを作った…?」

フィリオ「僕を作ったのも、あのパッケージを仕込んだのも、展示をさせたのも、それを取材させて発表したのも、全部あなたの筋書きですよね」

フィリオ「最初はそれでもよかった」

フィリオ「誰かの書いた物語でも、作り続けられれば、作品を見てもらえればそれでいいと思ったんです」

フィリオ「……だけど、今は違う」


フィリオ「僕はもう……誰かの人形でいることはうんざりなんだ!!!!」


フィリオ「だからこの舞台から降りようとしたのに……」


フィリオ「それすらあなたの物語だって言うんですか!!!!!」





フィリオ「あなたがいる限り、僕は何をしてもあなたの物語の駒……」

フィリオ「僕がオリジナルになるためには、あなたを消すしかないんだ……っ!!!!」



西村「フィリオ、何するつもり!?」

うしお「!!!それ……銃じゃないすか!!!」

西村「3Dプリンタで製造されてるわ……」


フィリオ「……さよなら、僕の父さん」





エヴァか?




フィリオはイタリア語で「息子」……




西村「いけない!」
うしお「フィリオ!待っ……」



パァンッ




ドサッ













フィリオ「はあ……はあ……」
ヘタリ


西村「編集長……っ!誰か救急車を!」

うしお「へ、編集長!」
タタッ

西村「ん……変ね、出血がないわ」

フィリオ「え……どうして……確かに銃弾が……」

西村「気絶してるだけみたい」

うしお「!銃弾が何かにめり込んでます」
うしお「編集長の胸ポケット…!」


西村「これは……」




西村・うしお「小さいディスプレイ……?」











どういうことだってばよ





フィリオ「は……ディスプレイ……?」


うしお「電源が入ってる……何が映っていたんでしょうか……」

西村「さあ……それも今となってはわからないわ」




西村「壊れてしまっては、何が命を守ってくれたかもわからないなんてね」






終わりです。ありがとうございました。









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フィリオくんは幸せになれたんだよな……?




いい話だった!乙!




ディスプレイに弾丸打ち込んだ展示やろうかな


寄稿:フィルマ(うしお鶏+西村梨緒葉)
扉絵:うしお鶏(フィリオキャラクターデザイン:西村梨緒葉)


編集:フィリオ

2021/07/07